2020年ありがとうございました
日蝕の瞬間に死んだ五人の男女の短編集です。江戸時代の暗黒面を舞台にした物語群ですが、どこまでも救いがなく、残酷で苦しいばかりのお話は、想像力のさらに上を行くような悲劇を、「でも本当にあったことかもね」と突きつけてきます。
読了後は胃がもたれるような不快感や悲しさに襲われ、しばらく落ち込みました。ここにあった物語の、その誠実なまでの残忍さはいつまでも心に焼き付きました。ただ、苦しい、目を背けたかったものを見てしまったという後悔だけではない感情も芽生えて、それは憐れみ、慈しみだとか、残酷な物語を喜ぶわたしの一部分だとか、とにかく、「突きつけられた物語」から見えた世界そのものに価値を感じました。昔々にあったであろう悲しい事象を(たとえば、飢えや病で死ぬ人のことを)知らなかったわけではないのです。それでもどこか、安穏とした日々の中で想像しきれなかったものを描き切った筆力の確かさと、残酷絵の中に見出す美のようなものに感服を覚えました。はじめて九相図を見た時の興奮とおなじです。美しいものが崩れていくものを描いたその絵の中に、いままで知らなかった美を見出したのだから。
と、いうわけで今年読んだ本で一番の出会いはこの本でした。花村萬月はインマヌエルの夜を読んだ時にもずいぶんショックを受けましたが、これはまた別角度の衝撃であったと感じます。
過ぎ去ってみれば正月を迎えたのがつい昨日のようで、あっという間に流れた今年は、事象のひとつひとつを振り返ってみれば意外な濃さにも驚きます。生き残ったことへの失望と、五体満足であることへの安堵を抱えて、今年を締めくくりたいと思っています。正直身の回りが大変すぎて、今年はいままでの人生で一番一年が終わる実感がないのですが。本当におだやかな日と言うのは返ってくるのでしょうか。それとも、これくらいどうでもいいようなさびしさでちょうど良いのかしら。
ではでは、良いお年を。
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